ポン・ジュノ監督とアン・チファン
By 竹下南
ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」が米アカデミー賞の4冠に輝いたというニュースは、韓国民はもとより私のような韓国ファンにとっても実に喜ばしい出来事だった。アカデミー賞発表以前から日本のメディアはこの映画を大きく報道し、私もタイトルの“パラサイト”“半地下”というワードに興味を誘われ、上映をワクワクして待っていた。ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホとくれば「面白くないはずがない」という期待感、久しぶりにソウルの街が見られるという懐かしい気持ちもあった。
そんな中、2020年新年そうそうロシア旅行に出掛けた際、JALの飛行機内で早くもこの映画を観ることができた。
もちろん劇場ではなく小さな画面での鑑賞だったので迫力には欠けたが、面白さ、また怖さは十分に伝わってきた。次から次へと一家の「パラサイト」状況が明らかになっていくストーリー展開は娯楽映画そのもの。ワハハ…と笑っているうちに次第にそれが恐怖へと変わっていくあたり、ここにポン・ジュノ監督の壮大なる制作意図が明らかになっていく。
大きく言えば戦後から現在までの韓国の抱えるすべての問題が盛り込まれている映画だ。これを見た世界中の観客は頭を殴られたように韓国の現代史に気がつくだろう。なぜ半地下に暮らさなければならない一家があるのか、なぜ丘の上の豪邸に地下室の必要性があるのか、ということに…。それにしても私は閉所恐怖症なので元家政婦の夫が豪邸地下室で暮していた場面には、息苦しさと残虐性を感じ、まともに画面を見ていられなかったことを白状する。
格差社会の現実を「半地下」、「豪邸」の暮しで対比させて描いたこの映画は韓流ドラマの集大成として世界中に韓国を印象づけたに違いない。さっそく豪邸近所(?)のスーパーが紹介されたり、ロケ地ツアーの案内があったりで、またしても韓流の再来かと思っていた矢先に起きたこのさわぎ、新型コロナウイルスだ。
世界中に蔓延しつつある新型コロナウイルスは日韓関係にも打撃を与えている。感染元としては中国の武漢、韓国の新興宗教、ダイアモンド・クルーズ船等々のようだが感染者拡大は近隣諸国だけの問題ではなくなってきている。がしかし日韓両政府が決めた3月9日からの日韓出入国制限強化は物流と人の流れを停滞させることは必至で、大きな問題になりそうだ。これから日本では新学期を迎え、留学生にとっても両政府の政治的取り決めに従わざるをえないのは可哀想でならない。
こうして考えるとビザ無し(観光)で行き来できることの有難さを今更ながらつくづく感じる。当たり前のように韓国に行けたことが夢のように思える。私事ながら4月18日にアン・チファンのコンサートのチケットを買ったけれど、果たして来日できるのかどうか?
『솔아솔아 푸르른 솔아』を日本で聴けることを願っている…。
2020.3.14